【第7回「児童文学草原賞」選考経過】
第7回草原賞は全国的にコロナ感染が拡大するなか、昨年10月31日に応募が締切られ、北海道はもとより、南は大分県から、125編(道内24編、道外101編)と、これまでで最多の作品が集まった。
一次選考では、児童文学者協会北海道支部の柴村紀代、升井純子、三浦幸司の各選考委員がそれぞれ推薦した計12作品を通過とし、二次選考は同じ選考委員のほか、今回から中澤千磨夫委員(北海道武蔵女子短期大学教授・国文学研究者)も加わっていただいて各作品について討議を行い、5編に絞り込んだ。選考は応募者の氏名・住所を伏し、応募作品の内容で検討した。
以下に一次選考で通過した12作品を紹介する。○印が二次通過。
「誕生日のカメラ」竹内佐永子(愛知県)
「ばあちゃんとの三か月」山本李奈(香川県)
〇「渋柿」Ine(岩手県)
「直と二人で」日下れん(北海道)
「たつこ」相川公司(北海道)
「おじいちゃんの背中」みわあつこ(徳島県)
〇「阿武(あんの)くん」森 俊(神奈川県)
「さびしいと、いま」吉田道子(京都府)
〇「シーサー 大阪にくる」つつみたくみ(兵庫県)
○「コナミのいる島」原結子(東京都)
「天の水、広がる海」西山香子(新潟県)
○「あんばさま」うのはらかい(千葉県)
1月16日に、二次選考通過の5編で草原賞の最終選考に入った。選考委員は二次の選考委員に加え、神奈川県の丘修三氏にZOOMで参加いただき、五人で構成した。
〈総評〉
「渋柿」長治が村で一本だけの渋柿を守る役目となるが、野生動物たちに毎年柿の実を取られてしまう。8年後、山のあちこちに実がなることで、長治の働きが見直される。特別学級の意味と、宮沢賢治の「虔十公園林」に類似したことで損をした。
「阿武くん」富子は牛乳が苦手だ。口下手で素っ気ない阿武くんが、富子に地図を渡してヤギの乳を飲ませてくれるが……。文の人物造形は巧みで読ませるが、テーマ性が物足りない。
「シーサー 大阪にくる」沖縄のシーサーが、ひなこに連れられて大阪に来る。そこで個性的な魔物たちとの争いが起こるが、肝心なひなことのかかわりが薄くなってしまった。
「コナミのいる島」与那国島の馬・コナミを、ナミは大好きだ。しかし、母はナミが島を出て進学することを願う。クブラバリという島の重い歴史とナミの選ぼうとする人生とが、うまく一致していない。
「あんばさま」かな子は誕生会を開くため、嵐を呼ぶという「あんばさま」に手作りの大漁旗を立てる。その後、嵐でジロの父は帰ってこなかった。自分のせいだと苦しむかな子に、「あんばさま」はほんとうは嵐を呼びはしないと、母さんの解釈で解決? かな子の位置づけが弱いのが残念だった。
以上の5作品から、討議した結果「草原賞」の該当はなく、「阿武くん」と「コナミのいる島」が佳作に決定した。それぞれが地域性と文章力の優れた作品だった。あとは、作品に込めるテーマをいかに貫徹するのかしっかりした構成を求めたい。
2年続けての「草原賞」受賞作なしとなったが、募集の趣旨と原稿のあり方をさらに明確に伝えるために、要項の文案の検討を行った。新しい募集要項を確認のうえ、第八回に向けて意欲的に新たな創作に挑んでいただきたい。